作者は前漢の時代の官僚である司馬遷。史記はただの歴史書にとどまらず、登場人物たちの様々な生き様がつぶさに描かれており、いろいろと考えさせられることが多い。思えば司馬遷本人も悲運な運命を辿っており、能力のある人間が運命のいたずらによって悲劇の最後を遂げる様子などには、自身を投影させているかのようでもあり、鬼気迫るものがある。
主な登場人物だけでもかなりの人数になってしまうのだが、なかでも項羽や劉邦、始皇帝や韓非子。孫子の兵法の孫武に天才武将韓信などなど、オールスター状態で息つく暇なく物語は進む。そしてこれら歴史的人物たちが様々な形で互いに影響を与え合い、歴史を織り成して行く様子はまさに圧巻だ。
たとえば秦の政治家商鞅。そのころの秦は弱小国であり、列強にいつ攻め滅ぼされてもおかしくない状態であった。商鞅は国王の権力を高め、世界最初の法治国家を築き上げ、秦を強国へと育て上げた。しかし法律が万人に平等であることから多くの特権階級の反感を買い、後ろ盾であった国王が死去した際に濡れ衣の罪で処刑されてしまう。彼は正しく、能力もあったにも関わらず報われることがなかった。だが、彼の生み出した法治国家秦はやがて始皇帝を生み、中国全土を最初に統一するまでになるのだ。
このように歴史が多くの人々の礎の上に連綿と続いて行く様子はロマンティックでもあるのだが、どこか物悲しい。運命の裏腹さに胸が詰まることも度々である。司馬遷は能力のある人間が報われない世を憎み、せめて書物にまとめることによって後世に伝えようと生き恥を晒しながら史記を書いた。
拘置所でこの史記を耽読したというホリエモンは今後どのように生きていくのか。俺は応援したい。