暇なので書評をば・・・
このルービンと言うおっさんはクリントン政権時代の財務長官を務めた凄腕野郎。クリントン政権はアメリカにアメリカ史上空前の好景気をもたらし、彼はニューエコノミーと呼ばれる成金野郎が溢れかえったご機嫌な時代にクリントンの右腕として活躍しアメリカ経済の舵を預かっていた。
もちろんルービンは好景気時にたまたま財務長官をやっていただけのラッキーボーイではない。その手腕はルービノミクスという造語が作られたことなどからもうかがい知ることができるが、彼の名声は任期中に起きたメキシコのデフォルト危機やアジア通貨危機など数々のピンチを乗り越えた上での名声なのだ。
財界から政界へと転身した彼が政界特有の足の引っ張り合いなどに当惑し克服していく様なども読ませるのだが、この回顧録の中でもっとも印象深いのは、彼の意思決定方法だろう。
それは蓋然的思考法とよばれ、「人生において確かなことは確かなことなど何もない」という彼の人生哲学から生まれたものであり、その内実は多くの人々が陥る意思決定の際の傲慢さや自己過信などを極力排したものである。
メキシコデフォルト危機の際、アメリカがメキシコを支援しなければメキシコはデフォルトを起こす可能性が高いが、支援したところでメキシコが立ち直るかどうかはわからない。失敗した場合血税がドブに捨てられるわけで、政権内にも多くの異論や反論があった中、ルービンはメキシコを支援することを決断するのだ(この状況ってバブル崩壊後の金融機関への公的資金投入問題と凄く重なってしまう。宮沢喜一は決断できずにバブル後の長く暗い経済低迷を招いたわけだけども、このあたりの指導者の決断力の差が日米の明暗を分けたのだと思う。あとルービンは本書の中でも日本の政治家を結構ディスってる)。
その理由は救済した場合のリスクが救済しなかった場合のリスクと比べていくらかマシだからであった。このあたりの駆け引きなどは、ケネディのキューバ危機時なんかを思い出すんだけど、ぎりぎりの中にあってひとつの結論を導き出さざるを得ない状況にアドレナリン分泌されまくり。また現実の持つ人智を超えた側面への畏れなどにも気付かされてしまう。日々相場というカオスの真っ只中でしのぎを削り合うデイトレーダーにもこのあたりの感覚は共有できるものかもしれんね。
あとクリントン政権時の労働長官ライシュの書いた「勝者の代償」なんかもかなりの良書です。
ちなみに「希望格差社会」はあからさまに「勝者の代償」を下敷きにしてます。